このたび仙台弁護会の会長に就任した髙橋春男です。これから1年間弁護士会を代表して様々な課題に取り組むとともに,市民の皆さんが弁護士会及び弁護士に寄せる期待にこたえるべく微力を尽しますので,よろしくお願いいたします。

 

はじめに

 およそ1年前私たちは未曾有の大災害のただ中にありました。マグニチュード9.0という最大規模の地震とこれに続く巨大津波,更に福島第1原子力発電所事故が複合した「東日本大震災」により,東日本全域が甚大な被害を受けました。特に岩手・宮城・福島の東北3県の受けた被害は筆舌に尽くせないものがあり,未だその被害が続いている状況です。私たち弁護士もこの震災により被災しましたが,震災によって亡くなられた方々に改めて哀悼の意を表します。私たちは震災の復興に向けた活動に全力で取り組む決意です。

 

1 法的支援事業特別措置法の成立を受けて

 私たちは,震災による被災者にできるだけ早く正確な情報を伝え,今後の生活再建の指針としてもらうため,昨年3月下旬から無料の電話相談を開始しました。この電話相談には,開始当初1日100件を超える相談が寄せられました。その後は,被災自治体や法テラスと連携し,また東北地方以外の弁護士の応援も得て,被災各地において相談会を実施し,また震災ADR(震災関連の民事紛争を簡易・迅速に解決する制度)を立ち上げ,多くの相談を受けるとともに紛争の解決をしました。

 このような被災者支援の活動を展開するうえで法テラスが運営している民事法律扶助の制度が役立ちました。しかし,扶助相談に資力要件(一定以上の収入のある方は扶助相談を受けられない)が定められているため,相当額の支援金や地震保険金の給付を受けた被災者が扶助相談を受けられないという不都合が生じました。また,個人の二重ローン対策として開始された個人版私的整理ガイドラインによる処理については,代理援助について自己破産や個人民事再生の場合と異なった取扱いがされるという不都合もありました。そこで私たちは,日弁連や他の弁護士会と協力して,これらの不都合を解消するための「法的支援事業特別措置法」の制定を強く求めてきました。そして関係者の真摯な努力によって,今国会において同法が成立する運びとなりました。今後は,これまで以上に被災者について法律扶助の制度を利用することが容易になりますので,弁護士会が掲げる被災者中心の「人間の復興」を実現する活動に生かしたいと考えます。

 

2 任期中に取り組みたい課題

 弁護士は,弁護士法第1条によって「基本的人権を擁護し,社会正義を実現すること」を使命としています。このような使命を帯びた弁護士全員が加入することを義務付けられている弁護士会もまた上記のような使命を持っています。主として以上の観点から,私が任期中に取り組みたい主な課題について述べます。一部表現が難しいところもありますが,その点はご容赦ください。

 

(1) 証拠の全面的開示と取調べ全過程の可視化等の実現

 宮城県では死刑の確定判決が再審により無罪となった「松山事件」がありますが,近時有罪判決が確定した事件について,再審において無罪となったり再審が開始されたりする例が相次いでいます。これらの事件において,検察官が持っている証拠が全面的に開示され,また捜査機関による取調べの全過程が録画されていれば,えん罪の発生を防ぐことができたはずです。私たちは,被疑者・被告人の権利を保障する適正な刑事手続きに不可欠なものとして,長年証拠の全面開示や取調べ全過程の可視化を国に対して求めてきましたが,残念ながらいずれも実現していません。私は,日弁連,他の弁護士会や市民と連携して,これらの実現を求める運動に取り組みたいと思います。

(2) 法律相談の拡充

 現在休日を除く毎日弁護士会館で各種の法律相談を行っていますが,近時相談件数が低迷しています。そこで,市民の方々がより利用しやすい形態の法律相談を実施したいと考えています。この分野においては,司法サービスを利用する市民の皆さんの要望(例えば平日だけでなく休日も相談を行ってほしいなど)もお聞きしたいと考えていますのでよろしくお願いします。

 

(3) 法曹人口問題

 今般日弁連は,弁護士人口の急激な増加により生じている不都合を解消するため,年間の司法試験合格者数を1500人程度にまで減員し,更なる減員については法曹養成制度の成熟度や法的需要,問題点の改善状況を検証しつつ対処すべきである,との立場を打ち出しました。私は,この日弁連の立場を基本的に支持しますが,司法試験合格者数の減少が既に述べた諸制度の実現や市民の法的サービス利用を阻害することがないよう留意しなければなりません。

関連して,司法修習生の給費制について触れます。政府は修習生への給与支給をやめて貸与制にすることを前提とする裁判所法改正案を国会に提出しました。これに対し,野党・公明党から,審議会を設置して平成25年10月31日までに法曹養成に関する見直しを行うこととし,その間は引き続き修習生に給与を支給するという内容の修正案が提出され,国会で裁判所法改正案が継続審議されています。私は,引き続き給費制維持を求める運動に取り組みたいと考えます。

 

(4) 秘密保全法案の制定に反対する運動

 現在国は「秘密保全法案」の国会提出を図ろうとしています。この秘密保全法案は,国家的秘密の漏えい行為を処罰するものですが,秘密の概念があいまいであったり,処罰対象とされる行為が広範に及ぶなど,日本国憲法が定める基本的人権を侵害するおそれの高いものです。私は,日弁連や他の弁護士会及び市民とともに,同法案の国会提出に強く反対し,これを阻止する運動に取り組みたいと考えます。

 

(5) 司法シンポジウムのプレシンポジウム等のご案内

 日弁連は本年9月15日に「震災復興と司法の役割」というテーマで司法シンポジウムを開催する予定ですが,6月2日に仙台弁護士会館で震災ADRをテーマとするプレシンポジウムが開催される予定です。その他弁護士会では,適宜憲法問題その他様々な人権問題をテーマとした講演会やシンポジウムを開催しています。その都度ご案内しますので,関心のある方は是非足をお運びください。

 

終わりに

 私たちが取り組まなければならない課題は他にも多数ありますが,それらについては適宜会長声明,意見書その他の方法によって皆さんにお伝えしたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。